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月刊ロジスティクス・ビジネス連載
『サプライチェーン解剖』その後

金沢工業大虎ノ門大学院MBAプログラム 教授
上野 善信

月刊ロジスティクス・ビジネスで連載中
『サプライチェーン解剖』の著者が、掲載記事のその後を追跡!あの会社は、どのような対策を打ち、現状どうなっているのか?

(1回/月 毎月20日頃更新)

テスラ、次は何地獄に陥る?

2019年1月31日

“意地の垂直統合は実を結ぶか?”と題してテスラを取り上げたのは2016年12月であった。EVは電動化により部品数が激減し階層的な部品サプライチェーンや複雑な組立工程が不要になるという世間の認識とは異なり、EVにおいても約3万点といわれる自動車の構成部品の85%は依然として従来の部品メーカーが供給しうるものであり、今後のEV競争においては85%の部品を安価に調達できる大規模既存メーカーに分があることを指摘した。

40万台の予約注文を受けたモデル3の生産は大幅に遅れたが、2018年8月にはやっと週5,000台(年間25万台規模)に達した。この過程にはマスク自身が“地獄”と呼んだ大量生産に不可欠な“モノの流れの清流化”への悪戦苦闘があった。

“生産地獄”が一段落すると、テスラは “引渡し地獄”に陥った。在庫があるにも関わらず引き渡す作業に手間取り納車が大幅に遅れたのである。これは“生産地獄”に比べると同情の余地はない。必要なのはノウハウなどではなく単なるキャパシティー計算だ。“地獄”という視点で見ると、先に述べた部品メーカーの開拓が進まず自社生産せざるを得ない状況は“調達地獄”であったことになる。

“地獄”(ボトルネック)は下流に移動している。次は“メンテナンス地獄”や日本であれば“車検地獄”が来るだろう。システムがインターネット経由で更新されるとはいえ、85%は普通のクルマだ。メンテナンスも家電並みとは行かない。

日産は最大航続距離を570kmまで伸ばした「リーフe+(イープラス)」を発売した。高級EV市場では、ポルシェが「タイカン(ミッションE)」を、メルセデス・ベンツが「EQC」を発売する。テスラの相対的商品力は低下し、サービス面の強化が急務だ。

サプライチェーン設計の際には短期的なモノの流れに目が行くが、顧客の使用ステージや製品のライフサイクルに合わせた中期的、長期的なモノの流れの考慮もまた重要なのは言うまでもない。

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