第5回 サプライチェーンの流れを最適化する物流オートメーション
Iwasa Hiroaki
Iwasa Hiroaki

第4回「NTTロジスコの現場力の真髄―LGPS」では、安全と品質を確保した上で低コストの物流オペレーションを実現するNTTロジスコ独自の改善手法「LGPS®」をご紹介しました。今回は、NTTロジスコグループの全国の物流センターにおける自動化設備の開発・導入推進を担う当社ロジスティクスイノベーション室スマートデザイン部門の岩佐裕章が「サプライチェーンの流れを最適化する物流オートメーション」について語ります。
現在NTTロジスコでは様々な自動化設備の開発・導入を進めていますが、背景にはどのような課題がありましたか。
EC市場の拡大等に伴う荷量の急速な増加や労働者の高齢化等の様々な要因により、物流センターでの人員確保が深刻な問題となっていました。また、常時雇用者の確保が難航することでスポットワーカーにも頼ることになるのですが、安定した作業品質の確保も課題となっていました。
様々な課題があったのですね。NTTロジスコでは、これらの課題に対してどのようにアプローチしましたか。
先にも述べたように荷量が増加する一方で労働力人口は今後も減少することが見込まれます。そのような情勢下で自動化設備の導入は多くの物流会社が取り組んでいるところです。当社では会社設立当初の1990年代からNTTグループの物流を中心に自動倉庫やデジタルピッキングシステム等の自動化設備を導入していますが、GTP(棚搬送型ロボット)※1 やAMR(自律走行搬送ロボット)等の自動化設備が登場し始めた2017年頃より導入を本格的に開始しました。従来の自動化設備は有軌道ロボットによる自動化が主流で、導入費用が高額なため大規模物流でないと導入に踏み切れなかったのに対し、GTPやAMR等のAGV(無軌道ロボット)※2 は汎用性が高く、導入費用も比較的安価なため選択肢が大幅に広がりました。日本の物流業界においても一つの転換期だったと思います。
※1 ピッキング作業者のところまでピッキング対象物を運ぶ物流ロボットのこと。Goods To Personの略。
※2 無軌道で自動走行する無人搬送車のこと。AGV(Automatic Guided Vehicle)とも呼ばれる。レールを設置する必要がないため導入コストを抑制することができる。
ここ数年様々な自動化設備が開発・販売されていますが、NTTロジスコの物流センターではどのような設備を導入しているのでしょうか。
2つの事例をご紹介したいと思います。
当社では、使用済みのレンタル機器等を回収した後、物流センターでクリーニング・動作試験等を行い、新しいお客様にお届けするリファビッシュサービスを提供しています。その中で、クリーニング工程を従来の手作業から全国通信用機器材工業協同組合と共同開発した「自動クリーニング作業ロボット」に置き換えることで約90%の省人化を実現しました。同ロボットの開発のポイントは、単に人が手で機器を磨く『動作』をロボットで再現するのではなく、ドライアイスの粒子を圧縮空気で噴射させ機器の汚れを除去し洗浄するという全く異なる手段で手作業と同程度の品質となるような機能実装を実現しました。さらに、このクリーニング技術を応用して、レンタル機器の付属品である電源アダプターケーブルの洗浄・検査・巻取り・結束作業を行う「自動クリーニング・結束作業ロボット」も開発・導入しています。
もう一つの事例ですが、店舗向けに多品種大量の商品を出荷する多店舗小売り向けの物流での店舗仕分け作業工程において、無人搬送車(小型AGV)を導入することにより、約35%の省人化と品質の確保を実現しました。導入のポイントは、製品のサイズや破損リスク等の個々の製品特性を考慮したプログラミングと、搬送ロボットとの受け渡しの際に作業者の身体に負荷がかからない作業環境設計にしたことです。また、後工程となる店舗での荷受け稼働の削減や陳列の効率性等お客様の店舗担当者の作業負荷に配慮した製品仕分けを自動で行う設計にしたことにより、お客様からも大変ご好評を頂いております。
当社の自動化全般に言えることですが、両事例においても他物流での改善事例やLGPS※3の基本的な設計や改善の思想も取り入れ、全体最適となる現場設計を行っています。
※3 トヨタ生産方式(TPS)をベースとし、従来のPDCAサイクルによる業務運営にS(Standard:標準化)とT(Training:人材トレーニング)を加えたNTTロジスコの独自のメソッド。
自動化設備の導入によりどのような効果をもたらしましたか。
課題であった人手不足の解消に加え、熟練者に依存しない作業体制の確立や作業品質の均一化、教育コストの削減等が効果として表れています。これらの効果は単なる自動化設備の導入によるものではなく、物流センターの改善活動やシステムのアップデート等といった継続的な取り組みと相まって実現できたものです。物流設計担当者や物流センターの現場リーダーも含め、全社的に自動化設備を導入・運用するノウハウが定着してきたことも導入効果と言えるでしょう。
自動化設備を導入する際に重要視していることは何ですか。
基本的に人を機械へ置き換えるというアプローチではなく、設備導入目的の明確化と全体最適を常に意識しています。自動化設備はあくまで手段であるため、生産性の向上や省人化といった面だけでなく、入荷物の納品形態や流通加工、出荷時の荷姿等サプライチェーンの上流・下流の条件に合わせ、実際に作業をする物流センターの作業者からの要望に至る細部までを考慮して、費用対効果を最大化できる手段を検討します。時には自動化設備を導入しないという選択も当然でてきます。
自動化設備の導入にあたっては、物流全体の業務設計やシステム構築等のあらゆる知識・技術・ノウハウを総動員することが必要となります。
NTTロジスコでは今後自動化設備をどのように活用して行く予定ですか。
2017年頃の黎明期に比べて落ち着いてきたとはいえ、自動化設備は現在も様々な製品がリリースされ進化し続けています。ロボット技術だけではなく、AI技術の活用や設備を運用して得られたデータの活用等、複数分野が連動しより高度化が進んでいるため、使いこなすにはハード・ソフト両方の幅広い知識が要求されることとなります。
一方、今後も自動化設備の活用シーンが広がっていく中で、単純な設備導入だけではなく、物流センターの中にとどまらずサプライチェーンの上流・下流の工程に合わせた設備を導入していくことが3.5PL※4事業者であるNTTロジスコに求められる重要な役割であると考えています。
※4 お客様企業の物流戦略の策定(4PL)から実際の物流運営(3PL)までのサプライチェーンに関わる様々な課題解決を実現するNTTロジスコ独自の事業モデル。
今後の岩佐さんの意気込みを教えてください。
実績が積まれてきたとはいえ、NTTロジスコとしての自動化はまだ大きな一歩を踏み出したところだと考えています。単体での導入実績から次のステップとして、GTP(棚搬送型ロボット)の導入や、WES※5を活用した複数の自動化機器が有機的に組み合わさったより高度な設備の導入を推進し、これからますます深刻化する人手不足の時代における当社物流の価値や存在感をより高めていく必要性を感じています。また、複数の技術の組み合わせやシェアード型の設備導入モデルの開発を進め、NTTロジスコならではのソリューション開発にも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。
※5 Warehouse Execution Systemの略。物流業務の管理を一元化し、効率化を支援するシステムのこと。
ありがとうございました。
岩佐 裕章(いわさ ひろあき)
ロジスティクスイノベーション室 スマートデザイン部門 主査、
MH技術管理士、マテハンシステム管理士補
マテハンをベースとした物流現場の自動化および物流現場のDX化