第6回 医療機器物流のノウハウを武器に挑戦した2拠点体制の構築と運用改善
Osawa Kanako
Osawa Kanako
第5回「サプライチェーンの流れを最適化する物流オートメーション」では、自動化設備の導入による人手不足への対応策をご紹介しました。今回は、物流センターでお客様物流の管理・お客様対応・改善活動等を担当する当社メディカルディストリビューションセンター横浜(以下、「MDC横浜」)の医療機器物流サブマネージャー大沢華名子が「医療機器物流のノウハウを武器に挑戦した2拠点体制の構築と運用改善」について語ります。
大沢さんの経歴を教えてください。
私は2013年にNTTロジスコに入社し、入社以来12年間医療機器物流に従事しています。現在はサブリーダーとして、医療機器メーカーのお客様物流運営管理・お客様対応(各種問合わせ、調整対応、KPI報告等)・改善活動等を担当しています。
MDC横浜の医療機器物流ではどのような課題がありましたか。
私が担当する医療機器メーカーのお客様は、循環器系の医療機器を中心に取り扱われており、当社で20年以上物流を運営しています。お客様の製品は、MDC横浜から医療機器ディーラーを経由して日本全国の医療機関へ配送されていますが、お客様は従来からの全国1拠点のみでの運営によるリスクを懸念されていました。東日本大震災やパンデミックによる影響を鑑みて、2020年に物流体制を2拠点化したいというご要望を頂き、西日本拠点開設の検討と提案を行うことになりました。

BCP対策ですね。NTTロジスコではどのような提案をされたのでしょうか。
2拠点の一方が機能停止した場合でも、2ヶ月間全国への製品供給の維持を可能とし、かつ、現在MDC横浜でお客様が取得されている製造業許可を元に実施している外観検査や日本語ラベルの貼付等を行う「製造作業」は従来どおり現拠点で実施し、新拠点では「製造作業」を実施しないことがお客様のご要望でした。このご要望に対し、全国配送も考慮しつつ安定した製品供給が可能な立地であることと、今後の拡張性等を勘案し、新拠点として当社のメディカルディストリビューションセンター大阪(以下、「MDC大阪」)をご提案しました。私はMDC横浜で長年お客様の物流に従事してきた経験を活かし、MDC大阪のフロア設計から従業員への習熟トレーニング・移送スケジュール立案・立上げ管理まで幅広く担当しました。
MDC大阪は、MDC横浜で製造した製品を移送し、保管・出荷する運用となるため、温度管理が必要な製造後在庫を最大2か月分保管できるだけの大型の定温庫を設置する必要がありました。ただ大きな定温庫を設置すればよいというわけではなく、最適な保管量と作業性を鑑みた適正サイズの定温庫を設計することがお客様へのコスト削減につながるため、保管効率を考えた定温庫の設置を検討しご提案しました。
当社の提案をお客様に採用頂いた後、立上げ前の従業員への作業習熟トレーニングでは、作業手順だけでなく、医療機器物流特有の製品特性と作業ノウハウの教育にあたりました。
また、MDC大阪への在庫移送スケジュールについては、MDC横浜の通常業務を止めずに行う必要があったことから、通常取扱い分とMDC大阪移送分の製造バランスに注意しながら、MDC大阪での製品受入れが効率良く行えるよう移送計画を立案しました。MDC大阪の立上げでは業務運営をサポートしつつ、運用開始当初の生産性等の低下を最小限に食い止め、想定より2か月早く安定運営を実現できました。

西日本拠点の開設によりどのような効果をもたらしましたか。
お客様に対して、お客様物流におけるBCP対策面、西日本方面の配送リードタイム短縮によるエンドユーザー様からの注文受付締切り時間の後ろ倒し、配送コストの削減等、お客様のサプライチェーンの安定化・効率化に貢献できたと思っています。また当社としても、医療機器物流共同配送サービス「メディカルライナー®」の関西ルートの新規開設等、西日本エリアにおける当社の医療機器物流プラットフォームの強化・拡大を図ると共に、高度管理医療機器販売業貸与業※1の営業所管理者を当社で配置して運用するノウハウを構築することが出来ました。
また、2023年にMDC横浜で運用している定温庫のキャパシティ不足が想定された際には、MDC大阪での定温庫導入の経験を活かし、品質を担保した上でMDC横浜既設の定温庫の4割程度のコストに抑えた定温庫の増設案をお客様にご提案し、採用頂きました。
私自身も新たな医療機器物流のノウハウを深め、一回り成長することが出来たと思っています。
※1 副作用や機能障害が生じた場合に人の生命や健康に影響を与える恐れがある「高度管理医療機器」の販売や貸与を行うために厚生労働省の許可を取得し適切な管理を行う必要がある業務のこと。
医療機器物流の物流現場におけるサブリーダーとして重要視していることは何ですか。
お客様のご要望に対しては、日頃からスピード感を持って応対することに加え、必ず何らかの回答をするように心がけています。当社としても制約等によりお客様のご要望に常に満額回答できるわけではありませんが、できないならできない理由を説明すると共に、できないなりの別の手法をご提案することを心がけています。これにより、両社で改善の実現に向けた方針を探ることができますし、当社からのアイデアをプラスしてお答えすることでより良い提案に繋がると考えています。
一方、日常業務で更なる改善を生み出すため、従業員には当物流業務で設定した「5S + 3Mの排除※2の強化」という目標の達成に向け、一人ひとりがどう貢献できるかを自ら考え、意見や行動に移してもらうカルチャーの醸成と維持にも重きを置いています。具体的な取組みとしては、週に一度センター内を従業員が2人一組で巡回し改善点を列挙する5Sパトロールを実施し、指摘事項に対する改善内容の発表や是正が完了していない事項を振り返る時間を設け、従業員自らが改善事項の発見~改善完了までのプロセスを完遂できる体制を整備しています。このような継続的な努力を通じて、業務改善の効果を最大限に引き出し、組織全体の成長に繋がるよう支援しています。
※2 5S:整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、躾(Shitsuke)の頭文字を取ったもので、職場の課題を解決するための改善活動のこと。
3M:無理(Muri)、無駄(Muda)、斑(Mura)の頭文字を取ったもので、生産性や品質を阻害する3つの要素のことで、それらを排除する改善活動を実施。
今後の大沢さんの意気込みを教えてください。
今後数年間でお客様の事業の方向性や在庫のラインナップが変化することが予定されており、それにより当社はより高度な生産性や品質の向上が求められることを想定しています。お客様のご要望を最大限汲み取った上で、これまでの日常業務での経験や新拠点MDC大阪開設の際に学んだノウハウを最大限に活かし、「3.5PL®※3事業者」であるNTTロジスコにしかできない高品質できめ細やかな改善を積重ね、それを最後まで確実に実行するというのが直近の目標です。「変化=成長」であると考え、昨日より今日、今日より明日、といったように着実にメンバー全員で前向きに変化していけるようチャレンジしていきたいです。
※3 お客様企業の物流戦略の策定(4PL)から実際の物流運営(3PL)までのサプライチェーンに関わる様々な課題解決を実現するNTTロジスコ独自の事業モデル。

ありがとうございました。
大沢 華名子(おおさわ かなこ)
メディカルロジスティクスセンター横浜 医療機器物流 サブマネージャー、
ロジスティクス検定オペレーション3級/管理3級、TPS検定4級、フォークリフト技能講習、高度管理医療機器販売業貸与業営業所管理者
物流センターでお客様物流の管理・お客様対応・改善活動等を担当
