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月刊ロジスティクス・ビジネス連載
『サプライチェーン解剖』その後

金沢工業大虎ノ門大学院MBAプログラム 教授
上野 善信

月刊ロジスティクス・ビジネスで連載中
『サプライチェーン解剖』の著者が、掲載記事のその後を追跡!あの会社は、どのような対策を打ち、現状どうなっているのか?

(1回/月 毎月20日頃更新)

静かに広がるレベニューマネジメント

2019年2月20日

“レベニューマネジメントで需要を最適化”と題して東北楽天ゴールデンイーグルスを取り上げたのは2016年11月であった。そのころビジネスホテルチェーンが、短期的な需要増が予想される地域で通常の3倍近い価格をつけ、「利用者の足元を見ている」と批判的な論調でニュースになった。一方ケースで取り上げた楽天は、ホーム球場のキャパシティが3万人程度という制約の中で売上を最大化するために、座席の価格を席種と日付という二方向にチケットの価格を細分化することで、パ・リーグ2位となる75.4%の座席稼働率を達成した。ファンの理解度を十分に検証しながら導入を行った点が成功要因であった。

その後、楽天は売行きに応じて価格を動的に変動させる、レベニューマネジメントの一手法であるダイナミックプライシングを導入した。さらにプロ野球では他にもヤクルト、ソフトバンク、Jリーグでは横浜Fマリノス、ラグビーではサンウルブズも導入した。この広がりは技術的な進歩というより、消費者の理解度の進展によるところが大きい。

ダイナミックプライシングは需要を調整するだけではない。フードデリバリー・サービスのウーバー・イーツの配送者は配送毎にフィーを受け取る。通常そのフィーは1件400円だが、配送者が不足しているエリアでは1件800円程度まで上がる。配送者はその様子をスマホで見てどこで働くかを決めるが、これは供給の調整だ。

AIブームも追い風になり、レベニューマネジメントに関するサービスを提供する企業も増えている。三井物産とヤフーはダイナミックプライシング事業を行うダイナミックプラス株式会社を設立し、そこに“ぴあ”も出資している。同社は、『一物一価の購買文化』(同社の設立趣旨より)がニーズにあった価格設定を阻んでいる現状の打開を目指す。

2016年の夏に有名アーティストの連名で「私たちは音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します」という意見広告が出され、2018年12月にはチケット転売規制法が成立した。しかし、高価でも買いたいというファンがいる以上、求められるのは転売への反対や規制ではなく、合理的な価格設定で販売する仕組みだ。『一物一価の購買文化』に固執しているのは、消費者ではなく提供者の方だろう。

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