アップル、急がれるサービス比率の向上
“超効率サプライチェーンの秘訣”と題して米アップル社を取り上げたのは、2016年3月であった。ケースでは、革新的な製品と同様にアップルの超効率サプライチェーンが高収益の源泉であるとして、1) 製品数の削減、2) 直販比率の向上、3) サプライチェーン改革のリーダーシップの三つをその秘訣と指摘した。少ない製品数は効率的な在庫管理、効率的なR&D、部品のボリュームディスカウントを生むこと、アップルストアおよびapp store / apple music 経由の直販により売掛金の回収を早めていること、これらを推進しているのがティム・クックによるトップダウンのリーダーシップであることを述べた。
その後3年たち、アップルには逆風が吹いている。iPhoneの売上高が伸び悩み、GAFA規制が追い打ちを掛け株価は大幅に下落している。この間、1) 製品数の削減、2) 直販比率の向上はどのように変化しただろうか。まず製品数はiPhoneを中心に2015年度の22個から2018年度は27個に増加した。わずか5個だが比率では23%増に相当する。結果、在庫日数は同様に6.1日から8.8日に44%も増加している。
Apple StoreやApple Musicなど直販の比率は25%から29%へと着実に増加していることから、受取りサイトが短縮されることが期待されるが、実際は26日から32日に延長している (図1) 。
図1. 直販比率と受取サイトの変化
また、直販比率の向上に伴って粗利率の向上も期待されるが、実際は40.1%から38.3%に低下している。 (しかし、支払いサイトを92日から125日に大幅に延長することでCCCは-60日から-84日に改善されている。図2)
図2. CCCの変化
これは恐らく、ハードウェア事業における競争激化が利益率や受取サイトなどの取引条件の悪化を招き、直販比率、特にネット経由のサービス販売比率 (14%) の向上による効果をもってしても穴埋めができなかったためだと思われる。アップルにとってサービスへの移行は急務なのだ。
GAFA規制を議論する際に、アップルを100%ネット経由のGoogleやFacebookと同列に語るのは気の毒だ。しかしこれは、幾多のハードベンダーが試みて実現できなかったサービスへの移行を、アップルが実現しつつあるものとして当局が警戒している証左とも言えるだろう。