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月刊ロジスティクス・ビジネス連載
『サプライチェーン解剖』その後

金沢工業大虎ノ門大学院MBAプログラム 教授
上野 善信

月刊ロジスティクス・ビジネスで連載中
『サプライチェーン解剖』の著者が、掲載記事のその後を追跡!あの会社は、どのような対策を打ち、現状どうなっているのか?

(1回/月 毎月20日頃更新)

1,750億円の在庫増はサプライチェーン統合管理のための投資(ユニクロ)

2019年6月20日

“「アパレル版トヨタ方式」の算盤勘定” と題してザラを取り上げたのは2016年の2月であった。ザラは小ロットかつ二週間という極めて短いリードタイムで商品開発・製造・輸送を行うことで、需要変動に追従しプロパー消化率(定価での販売比率)をユニクロと比較して15ポイントも高めている。この15ポイントはザラの高コストオペレーションを補うのには十分であり、ユニクロよりも8ポイント高い営業利益率を残している。また、キャッシュサイクルは-70日とマイナスであり、自社物流のための有形固定資産保有などによる資金効率の悪化を防ぎ、ROICも49%と高い(ユニクロは39.6%、数字は全て2014年度)。これらは企画・製造・物流・販売を全て自社で統合管理することによる成果であると指摘した。

3年後(2017年度)のザラは依然として好調だ。売上は37%増、粗利率は若干低下したが、販売管理費率が低下し営業利益率は20%を超えた。一方のユニクロは、売上は54%増、営業利益率も10%を超えるなど過去最高益を記録した。販売管理比率の低下がそのまま営業利益率を押し上げた形だ。

しかし、2017年度と2016年度を比較すると、在庫金額が2,900億円から4,650億円に急増し、それに合わせてキャッシュサイクルも42日から94日へと大幅に悪化している(表参照)。何が起こっているのだろうか。そのヒントは2017年度(2018年8月期)の決算報告資料にある。いわく、企画・製造・物流・販売を高度に統合管理する「情報製造小売業」を目指し、「ムダなものを作らない、運ばない、売らない」(すなわちプロパー消化率の高い)サプライチェーンを実現する、という。ザラの本社を髣髴とさせる、本社機能と物流機能を併せ持った有明本部(UNIQLO CITY TOKYO)はその象徴だ。

もちろん、物流の自社化(例えば、間接貿易から直接貿易への変更)にともない、従来商社名義であった移送中在庫はすべてユニクロの資産になる。これらの差分が1,750億円であり、いわば「ムダなものを作らない、運ばない、売らない」サプライチェーンのための投資だ。物流を自社化せずともIoTの活用などにより見える化は実現できるかもしれないが、統合管理には物流の自社化は避けられない。これがユニクロの判断だろう。この投資が機能しだしたとき、プロパー消化率とともに粗利益率も上がるだろう。

表.ザラ(Inditex)とユニクロ(ファーストリテイリング)の業績比較

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