NTTロジスコ

月刊ロジスティクス・ビジネス連載
『サプライチェーン解剖』その後

金沢工業大虎ノ門大学院MBAプログラム 教授
上野 善信

月刊ロジスティクス・ビジネスで連載中
『サプライチェーン解剖』の著者が、掲載記事のその後を追跡!あの会社は、どのような対策を打ち、現状どうなっているのか?

(1回/月 毎月20日頃更新)

BTO技術の価格は1/10に

2019年7月19日

“ジーンズのBTOはなぜ頓挫したか”と題して米リーバイ・ストラウス社を取り上げたのは、2016年4月であった。ケースではGAP等新興ブランドの隆盛にシェアを落としたリーバイの取組みを紹介した。リーバイは女性用ジーンズがデザイン・サイズの点で顧客満足が低いことに気付いたが、同社の2万SKUのうち店舗に在庫できるのはせいぜい千SKUに過ぎず、それでも在庫金額は売上の8か月分に相当していた。在庫を増やさずに顧客満足を改善する必要に迫られたリーバイは、1994年に受注生産(BTO)によるジーンズ生産・販売を始めた。店舗や輸送の費用負担がなく、顧客が送料を負担するBTOはコスト面では割安だ。ROIC(投下資本利益率)で見るとジーンズ一本あたり30ドルのBTO技術・設備費用を負担しても従来チャネル(MTS:Make To Stock)よりも高い。顧客のリピート率もたかかった。しかしMTSとのチャネルコンフリクトにより、BTOの販売比率は当初の目論みである10%には届かず、技術・設備費用の負担を回収できずBTOは2003年に終了した。

開始当初から四半世紀が経過し、この技術と設備の様相は大きく変わった。いまや広く普及したスマホは高性能カメラと通信機能を持ち合わせる。これを利用すればゾゾスーツのようなサイズ計測も安価に実現できる。勿論、ゾゾの投資は小さくない。第一世代のゾゾスーツのためにStretchSense社のコールオプション取得価格に20億円、第二世代の技術“アイデア”には3億円、さらに100万枚とも言われるスーツの費用(一枚1,000円として10億円)も必要だ。

しかしリーバイの投資額は技術取得(企業買収)だけで200億円を超える。純粋に技術取得に要した額を比較すると、ゾゾの投資はリーバイの1/10だ。収集する体型データは、リーバイが受注したジーンズの縫製に必要なものであるのに比較して、ゾゾは全身のデータを100万人単位で集める。情報価値も桁違いだ。

ゾゾスーツの計測精度には依然として課題があるようだ。正確に計測できるとしても、生地の伸びや滑り具合や本人の好みに応じて適切なサイズは変わるため、満足のゆく衣服が手に入るとは限らない。しかしパイオニアには失敗はつきものだ。足型を三次元で測定するゾゾマットに期待することにしよう。

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