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月刊ロジスティクス・ビジネス連載
『サプライチェーン解剖』その後

金沢工業大虎ノ門大学院MBAプログラム 教授
上野 善信

月刊ロジスティクス・ビジネスで連載中
『サプライチェーン解剖』の著者が、掲載記事のその後を追跡!あの会社は、どのような対策を打ち、現状どうなっているのか?

(1回/月 毎月20日頃更新)

積極的なマテハン投資に舵を切る(トラスコ中山)

2019年9月20日

“逆張りの「持つ経営」支える組織能力”と題してプロ用工具の専門商社、トラスコ中山を取り上げたのは2016年の7月であった。いわゆる“持たざる経営”が主流である今日、全国16箇所の自社物流センターに26万5千アイテム(2015年12月期、以下同じ)を在庫し、「さまざまな商品がすぐ届く」という顧客価値を実現している。一般的に在庫アイテム数を増やせば低回転商品が増え、管理効率も低下する。しかし、トラスコ中山は、在庫“ヒット率”(88.2%)を年々高めつつ、同時にアイテムあたりの販売管理費を減らしている。さらに、一日あたり166アイテムというハイペースで取扱い商品を増やすことで、価格競争に巻き込まれない収益源を確保している。これらの“逆張り”の経営を支えているのが、100億円を超える情報システム投資と社員の問題解決力であることを指摘した。

その後2018年12月期では、在庫アイテム数は37万4千アイテムに増加し、ヒット率も89.9%に向上し、2015年12月期に1,665億円であった売上高も2,142億円まで増加している。一方経常利益を見ると、2016年12月期からほぼ横這いだ。

図)トラスコ中山の売上高・在庫金額・経常利益

出典:同社IR資料より

これは、昨今の人手不足と技術革新を背景に、積極的なマテハン投資に舵を切ったためだ。トラスコ中山は今まで販売履歴の分析や需要予測といった情報システムには積極的に投資してきたものの、いわゆるマテハン機器はほとんど利用してこなかった。レールを張り巡らせる従来型マテハン機器は、日々成長しアイテムの構成も変化するトラスコ中山にはフィットしなかったのだろう。
しかし、無人搬送装置や自走行型棚搬送ロボットなどのAIを搭載したマテハンロボットはレールなどを必要せず変化に柔軟に対応可能だ。もちろん、オートストア、移動パレットラック、パレット自動倉庫などはある程度の固定設備を必要とするが、その設備設計に必要な荷動きに関する情報は蓄積済みということなのだろう。

これらのすべての機器を導入したプラネット埼玉は、トラスコ中山のパイロット物流センターとして最大52万アイテムの在庫の“高密度収納”と“高効率出荷”を追求してゆくという。まさに満を持して舵を切った今回の投資には、「まず紙ベースで運用して業務が回るようになったら情報システムの開発に着手する」というヨーカドーの伝説を彷彿とさせる凄味を感じる。

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