エアバスとの一騎打ちに足りないもの(ボーイング)
“787の大幅納入遅延はなぜ起きたか”と題して米ボーイング社を取り上げたのは、2016年8月であった。9・11テロ以降冷え込んだ航空業界向けにボーイングは、炭素繊維強化プラスティックの大幅採用など革新的技術の採用により燃費性能を777と比較して20%改善した中型旅客機787を企画した。787はその開発、製造においても国際分業体制により、機体の65%に当たる部位の詳細設計と生産をパートナー企業が担当し、開発総コストの40%削減、開発工期の2年短縮を目指した。しかし、数百万点の部品を“オフショアリング”で製造するこの取り組みに際して、ティア1企業の「サプライヤー取りまとめ能力」を軽視したため、品質問題やサプライヤーからの納品遅れが多発し納期は3年遅れ、最終的なサプライヤー分担比率は777時と同程度の35%であった。製品としての787は大ヒットであったが、開発工期の短縮とコスト削減は実現できなかった。
その後のボーイングは様々な問題に悩まされている。
737MAXは立て続けの2度の墜落事故を受け、米連邦航空局により運航が停止された。その影響でボーイング社は今年10月、100億ドル(一兆一千億円)にも上る損失を計上し、2019年2月末で440ドルであった同社の株価は10月末で329ドルまで下落している。737は累計10,000機を販売しバックオーダーは4,400機、依然として月産42機を数えるボーイングの稼ぎ頭だ(787は同529機、14機、777は同85機、5機)。
しかしその初飛行は1967年であり、日本の空から引退した747よりも長寿だ。ボーイングは787の次に737の後継機の新規開発を検討していたが、2010年12月にライバルのエアバス社が発表したA320neoの滑り出しが好調であったことを受けて、慌てて開発に着手したのが737MAXだ。連続墜落事故の直接的な原因は、機体制御ソフトの不具合と言われるが、本質的な原因は株式市場や経営陣からの工期短縮圧力だろう。
他にも777の後継機777Xの開発遅れがアナウンスされたり、787の緊急酸素系統の品質問題が指摘される(https://www.bbc.com/news/business-50293927)など、商用機の雄に暗雲が垂れ込めている。群雄割拠の様相を呈していた1970〜90年代を、1960年代に開発した737、747という超ロングセラー航空機で乗り切ったボーイングは、今日のエアバス社との一騎討ちを乗り切るのに欠かせない“何か”を習熟するタイミングを逸してしまったのではないだろうか。